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オリジナル共作小説「恋をするのは約束のあとで」 【 第1章 】

制作裏話
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【 第1章 】

ピピピピピ。

「……ん……。」

聞こえてくるアラーム音。まぶたの奥に残った景色がゆっくりと滲んでいく。
音のする方に何度か手を伸ばす。……あった。
掴んだスマホを目の前に。アラームを切って待ち受け画面に。

「あー、もう……こんな時間かぁ……。」
今日は二限から。でも、そろそろ起きないと支度が間に合わない。
クシャクシャになった掛け布団をなんとか押しのけて、床に足を下ろす。

ペタペタという足音を引き連れて洗面台の前へ。
蛇口をひねって冷たい水をすくい、ぱしゃりと顔にかける。
視界がはっきりしてくると、胸の奥に残っていた熱も少しずつ引いていった。

「……なんで、今さら、あの夢なんか……。」

子どもの頃の、幼くて拙い約束。
思ったことをそのまま口にしても、誰も咎めなかった――あの頃だけのもの。

懐かしいというより、気恥ずかしい。
もう一度、冷たい水を顔にかけて、熱を冷ます。

コップに水を汲んでうがいでもしようかと手を伸ばしたとき、
洗面台の脇に置いたスマホが光った。通知は、同期の橋戸さんから。

――柚葉へ
今日の飲み会、ちゃんとオシャレして来ること!
なんとかセッティング成功したんだから、楽しもうね~。
お店のURLはあとで送るよ!

「あー、忘れるとこだった。五限終わったら一旦帰んなきゃ。」

オシャレって言われても……
部屋の隅に畳んで置いてある服とイヤリングを横目に見る。
店員さんと橋戸さんに強く勧められて買ったもので、自分じゃ選ばないタイプのやつ。
でも、あれを着ていけば……まあ、なんとかなるかな。

「あとは……髪にちょっとカール入れて……
って、今はそっちじゃないよね。」

サッと取り出したシリアルが、器にカラカラと音を立てて広がる。
牛乳をかけるか、ヨーグルトに混ぜるか。
そんなことを考えているうちに、さっき見た夢もまた、薄れていく。

たくさんある、他愛もないものの一つとして。

ただでさえ、考えることだらけの毎日だ。
普通の一日を送る以上のことなんて、きっとできやしない。

あの時、もしもう一つを選んでいたら――なんて。

「考えてる暇ないや。早く食べないと。」

そう言って、パタンと冷蔵庫の扉を閉めた。

 

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