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オリジナル共作小説「恋をするのは約束のあとで」 【 第5章 】

制作裏話
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【 第5章 】

「い、一瀬く――」

名前を呼ぼうとした、その瞬間。
急に目の前に立ちはだかっていた彼が、距離を詰めた。

唇に触れた、湿った温もり。
肩から背中へ回された腕が、まるでシートベルトみたいにわたしの体を抱き寄せる。

服越しに伝わる体温。
それでようやく、自分が——抱きしめられているのだと、頭が理解した。

「ぷあっ……い、一瀬くん、なにしてっ……!」

唇が離れて、視界が戻る。
顔が、すぐ目の前にある。
……でも、その表情を見た瞬間、言葉が続かなかった。

「これで、お前には交渉材料ができた」
「は……? なに言って……」
「本気で嫌だったら、噛むなり突き飛ばすなりしろ」
「ま、待ってよ一瀬く、んっ……!」

再び、唇を塞がれる。
背中に回った腕は、離してくれそうにない。
痛くはない。でも、ぴくりとも動かない。
まるで、感情が一点に凝縮されたみたいな強さで。

……いや、抜け出そうと思えば、できる。
たぶん、この状況は――

ホテルに連れ込まれた女の人が、男の人に羽交い絞めにされて、唇を奪われてる。
それだけ見れば、わたしは「襲われている」側だ。

指摘すれば、きっと彼はそれ以上はしない。
……そんな確信があった。

でも、それをしようとは思わなかった。

だって、いつの間に――
蒼真くんは、あんな顔をするようになっていたんだろう。

すごく、怒っていた。
傍から見たら、逃げ出したくなるくらい怖い顔だった。

なのに、目の前にいる彼を見ているわたしの胸は、キュッと締めつけられた。
だって――彼が怒っているのと同じくらい、後ろめたそうだったから。

一本線になりそうなくらい、ぎゅっと寄せられた眉。
その下で揺れていた瞳。
きゅっと結ばれた唇の奥は、きっと……内側で噛んでたんだと思う。

いったい、何を押し殺してるんだろう。

そう思ったら、
突き放そうなんて――思えなかった。

「……なんで、抵抗しないんだ」

互いの吐息が荒くなるほどのキスのあと、
蒼真くんが低い声でそう言った。

「だ、だって……一瀬くんが、何考えてるのか、わかんないっ……!」

言ってしまったあと、気づく。
蒼真くんのまわりの温度が、すっと冷えたような気がした。

「わかんない、か……。お前がそこまで鈍感でもな」

その言葉のあと、体がふわっと浮いた。

背中に柔らかさを感じる。
天井が一瞬見えたかと思うと、すぐに蒼真くんの顔が視界を覆った。

「こうすれば……さすがに、わかるだろ?」

ギシ、とベッドが軋む音。
顔の横で、リネンを押しつぶすように支える太い腕。
もう片方の手が、肩をぐい、と押さえてくる。

「ここが“そういう場所”だって、なんで知ってた?」
「そ、それは……その、友達が話してるのを聞いて……あっ」

肩から手がすべって、胸元へと降りてくる。
熱を帯びた手のひらが、服越しにわたしの形を、たどたどしくなぞる。

「男遊びするような友達と、一緒にいるのか」
「そ、そんな……なに、人聞きの悪いこと……あ、んっ……!」

腰に手が触れたかと思えば、
今度は首筋に、やさしく、ついばむようなキス。

「やっ……い、一瀬くん、そこ……なんか、変な感じっ……!」
「……このあたり、か」
「や、待って……あぁっ……!」
「言っただろ。嫌なら、そう言え」
「そうじゃ、ぁっ……なくて……んっ……」

三度目のキス。
今度は、唇だけじゃない。
舌が、わたしの奥へ、ゆっくりと入り込んでくる――

「んっ、はぁっ……んぁ……っ」

歯肉をなぞって緩んだ隙間に、しなやかな熱が入り込む。
上あごの裏をくすぐるように、舌が触れて――
わたしの奥を、唾液ごとかき混ぜていく。

なのに、応えようとわたしの舌が動くと、
その熱はするりと、逃げるように口を離れてしまった。

「はぁ、あっ……いひのせ、くん……」

視界の端で、唾液の糸がきらめく。

呼吸が整わない。
てらてらと光る、蒼真くんの唇から、目が離せなかった。

「……すごい顔してる」

どんな顔をしてるかなんて、そんなの……

ただでさえ、目の前の彼のことで、頭の中がいっぱいなのに。
折り重なるように触れてくる体温だけで、胸の鼓動はどんどん早くなる。

「そんなの、わかんないよっ……!」
「本当に、わかってないのか?」
「だから……なにが……あっ……!」

ブラウスをめくられる。
露わになったのは、花柄のレースをあしらった、今日の下着。

――初めて。男の人に見られた。
しかも、それが蒼真くんで。

風邪なんか引いてなくても、
体温ってこんなにあがるんだと、今、初めて知る。

「すごく、よく似合う下着だな」

つぅ、となぞる蒼真くんの指先。
レースの縁を、指がゆっくりと追っていく。

ときおり、その指が肌に触れる。
くすぐったくて、でも優しくて、ふるえるような感覚。

襲ってるなんて建前、崩れそう。
それくらい、愚直で、やわらかくて――まっすぐで。

「この、とろけた顔も。
下着の奥の肌も。
……狙うやつが、どこにいるかもわからないか?」
「そんなのっ……そん、なひと、いないよっ、あぅっ……!」

指が、ブラの縁をなぞっていたと思ったら――
次の瞬間には、そのすき間に滑り込んでいた。

同じ指のはずなのに、触れる場所が変わるだけで――
感じ方が、まるで違う。

柔らかな温度じゃない。
びりびりと、電気が走ったみたいな感覚。

弾いたかと思えば押し込まれて。
くい、くい、と躍るように指が動くたび、
背骨の奥に走る感覚が、もう抑えられなかった。

「お前の、向かいの席……あそこに座ってたやつ」
「え、あっ……な、なにの、あうっ、あぁっ……!」

「感じのいい奴だったな?」
「なんで、今そんな話っ……あ、押しつぶしちゃ、ああっ……!」

「そいつに、連れ出されてたら。……どうしてた?」
「わかんな……分かんないよっ、あ、いぁっ……!」

少しだけ、痛かった。
それは、わたしの先端が勃っていたせいかもしれないし、
蒼真くんの手に力がこもったからかもしれない。

けど、それ以上に、
胸の奥が痛かった。

どうして――
どうして、そんなこと言うの。

今こんなに、蒼真くんで、いっぱいいっぱいなのに。

「っ……」

わたしの眉間にしわが寄ったのを見て取ったのか、
蒼真くんの指が、すっと胸から離れていった。

指先の熱が消えていく。
それが切なくて、わたしは思わず、残り香を抱きしめるように腕を組む。

「……すごい恰好だ」

その一言で、また胸がトクンと跳ねた。

耳元に蒼真くんの顔が近づいてきて、
湿った声と、吐息の熱がいっぺんに鼓膜をくすぐる。

「男を誘うの……馴れてたりするのか?」

そんなわけ、ない。
なにもかもが、初めてなのに。

スカートがめくられ、下着をさらけ出される。
――それすら、彼にされるのが、初めて。

「あいつにも、触らせてたかもしれないのか?」

違う。そんなことは、絶対にない。
だって――蒼真くんだから、
わたしは、抵抗してないの。

下着の上から、一番恥ずかしい場所に触れられても。
くちゅりと、濡れた音が自分の体から鳴っても。

「なんとか……言えっ……!」

でも、答えが出せない。
だって、自分の体が……心が……

もっと奥まで確かめてって、
言いたがってるのを止められなくて。

「でないと、俺が……どうにかなりそうなんだ……!」

つぷ、と音を立てて、指が――
わたしの奥へ、知らない場所へ、入り込もうとする。

怖い。
だけど、それでも――

わたしは、受け止めてあげたいって思った。

だってもう、きっと。
わたしのほうがどうにかなってる。

「そうま、くんっ……!」

彼の背中に、ぎゅっと腕をまわす。
名前を呼んでしまった。

「ゆ……白石っ……!」

彼の指が、わたしの中に入ってきた。
わたしが彼を抱きしめたのと、どちらが先だったかなんて、もう覚えていない。

「~~~~~っっ……!」

腰から頭へ突き抜ける、強烈な感覚。
わたしは、自分を持っていかれないように――
必死に、蒼真くんに、しがみついていた。

 

 

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