【 第7章 】
「んっ……」
唇が、そっと触れ合う。
体勢はさっきと同じ。
わたしが下で、蒼真くんが覆いかぶさっている。
でも、さっきとは決定的に違うことが、二つあった。
「あむっ……ちゅっ……」
「んっ……くっ……」
ひとつ目は、彼だけが“襲ってる”わけじゃないということ。
侵入してきた彼の舌に、
わたしの方から吸い付いて、応えてしまってる。
唇を食まれて、同時に、彼の舌を味わってる。
二つの感触が混ざって、頭がくらくらしてきそう。
そして、ふたつ目。
……ふたりとも、服を着ていないこと。
どちらかがわずかに身じろぎするたびに、
肌と肌が触れ合う場所が変わる。
ただそれだけなのに、
くまなく、全身に熱が灯っていく。
「ぷあっ……しら、いしっ……」
「あっ……一瀬、くっ……んうぅっ……!」
辛抱たまらないような顔で、
蒼真くんが胸の先端に口を寄せる。
「一瀬く、あふっ……ふあぁっ……!」
ぬめりのある弾力で、胸の先端を撫でられる。
固くなった箇所をはじかれるたびに、頭の中で何かがパチパチとはじけていく。
もう片方の乳房も、彼の手で優しく包まれる。
その手が、さっきよりもずっと直に、熱を伝えてきて——
どれだけ、さっきは抑えてくれていたんだろう。
そんな考えも、下腹部に感じた感触で吹き飛ぶ。
「ま、待ってっ……!」
「す、すまない……痛かったか……?」
……気づいてなかったんだ。
互いにとって、一度しかない“初めて”を。
危うく、終わらせてしまいそうだったことに。
「ううん。そうじゃなくて……もう、我慢できない?」
「……あぁ。だいぶ、限界だ」
「じゃあ、それ――着けよっか」
「……そう、だな」
さっき枕元に置いてあった、あの袋。
蒼真くんはもう一度それを手に取り、
封をピリッと破る。
慣れない手つきで、それを着ける。
指先が少しぎこちないけど、真剣なまなざしで。
「こう……か。……合ってる、んだよな」
「う、うん……たぶん……」
蛍光色のコンドームが、彼を覆う。
それを見た瞬間、ようやく……ようやく、実感が湧いてきた。
思わず、喉が鳴る。
「……怖いなら、止める」
そう言われて、静かに首を振る。
「いいよ。来て……して、ほしい……」
体を、そっとベッドに預ける。
それを見た蒼真くんが、こくりと頷いた。
先端が、わたしに触れる。
そのまま、ゆっくりと――
「いく、からな」
今度は、わたしも頷いた。
そして、蒼真くんが、ゆっくりと中へ入ってくる。
さっき触れられた場所より、もっと奥へ。
「んっ……!」
これまで感じたことのない、押し広げられる感覚。
そして――
「うあっ……!」
「っ、い……あぅっ……!!」
初めての証を破られる、鮮烈な感触。
内側に広がる痛みと、彼の熱を――
わたしは、ひたすらに受け止めようと、歯を食いしばった。
「し、白石っ……!」
「んっ……い、たぁっ……!」
心配かけたくなかったのに、
初めて感じた痛みは、どうしても隠せなかった。
息をついた瞬間、言葉が漏れてしまう。
「い、痛いのか……いったん、抜いた方が……」
「だ、だめ。今、抜いちゃ……ヤダっ……!」
「で、でもっ……!」
わたしはシーツから手を離して、蒼真くんの体を抱き止めた。
「……少し、待って。このままで、いいから……」
「……わかった。そうする」
動きを止めてくれる。
でも、ゴム越しでも彼の熱ははっきりと伝わってきた。
少しでも痛みと熱を逃がしたくて、大きく息を吸って、吐く。
……でも途中で、息が切れてしまう。
「白石……」
頬にそっと手を添えられて、目を開ける。
心配そうな顔で、蒼真くんがこっちを見ていた。
笑うような場面じゃないのに、頬が緩んでしまう。
「なに……痛がりながらニヤついてんだ」
「ううん。そんな顔、するんだなって」
「だって……痛いんだろ?」
「ん。そうだね。でも――」
片方の手を、彼の背中から頬へ。
気持ちが伝わってほしいと願いながら、そっと撫でた。
「……そうして、って。わたしが言ったから」
「白石……」
ゆっくりと、顔が近づいてくる。
わたしも目を閉じて――
互いの頬の感触を確かめながら、唇を重ねる。
深くない、でもたしかに繋がってるって感じられるキス。
その熱にふらりと、わたしの腰が小さく揺れてしまう。
「くっ……おい、それ……」
「……?」
目を開けると、蒼真くんが必死に何かをこらえてるのが見えた。
「ああ……くそ……本当に、自覚ないのか……?」
なにがだろう。
「……痛みは、大丈夫か?」
「あ……うん。少しは、だけど。大丈夫」
きっと我慢できるくらいになった。
それに、わたしは……
「だから……蒼真くん。きて……?」
彼に触れられて火が灯った熱は、もうどこにも逃げ場がなかったから。
「……分かった」
そう言って、蒼真くんがゆっくりと腰を動かし始める。
「んんっ……! あっ……あぁっ、はっ、んぁ、ああっ……!」
くちゅ、ちゅぷ……
繋がっている場所から、ぬるくて濡れた音が響く。
時折、二人の体がぶつかる音も混じって。
ああ……これを、彼とわたしの“二人だけ”で奏でているんだ。
息遣いが混じり合う。
くぐもるような呼吸、抑えきれず荒くなる吐息。
それすら、愛おしくて。
ぽたり、と落ちた雫。
吐息に乗せきれなかった熱が、蒼真くんの頬から零れ落ちる。
それがわたしの肌に触れたら、
もう全部――混ざってしまうんだろうなって、思った。
「蒼真、くんっ……そうま、くんっ……!」
「はぁっ、はぁっ……しら、いしっ……!」
「んぁっ、あっ、ああ、んっ、はんっ、あぁっ……!」
中をかき混ぜられるたびに、
内側が、熱に溶けていくみたいだった。
ただ“入っている”だけでも体がいっぱいだったのに、
こんなふうに動かされたら、もう――
でも、きっとそれは蒼真くんも同じ。
必死に、堪えてくれているのがわかる。
わたしを、傷つけたくないって気持ちがちゃんと伝わってくる。
「あっ、ね、ねっ、そうま、そうまくんっ……!」
「はっ、あぅ……しら、いしっ……?」
「……名前、んっ、名前で、あっ、呼んで、ああぁっ……!」
「ゆ、ずはっ……ゆずは、ゆずはっ……!」
“二人”で、ちゃんと一緒になれてる。
今は、それだけがすべてだった。
「はっ、はぁっ……ゆずは、俺……もうっ……!」
「あっ、あぁ……い、いいよ……っ、んぁっ、そのままっ……!」
「う、うぁ、あ、あっ……うぉあぁっ……!」
「んぁ、あっ、ああ、あんっ、んんっ……!」
きっと、ぜんぶを受け止められるから。
「ゆずはっ……!」
「ん、んあああぁぁぁっ……!!」
――ずちゅん。
奥の奥、一番深いところへ。
彼が突き立てられて、その瞬間――
わたしの中で、彼が脈打った。
二度、三度と――
体の奥で脈打ち、膨らんでいく。
―――蒼真くんの、遺伝子。
いつかそれを、ちゃんと受け止められる日が来ますようにって。
そう、願いながら。
わたしたちは、大きく息をついて。
心地よい気だるさと、互いの体温に、身を委ねていったのだった。
コメント